家族信託と民事信託の違い
近年増えている、家族信託。信頼できる家族・友人・知人などに財産管理を任せられる制度です。名称が似ているもので、民事信託と言うものもあります。「家族信託」や「民事信託」は内容はほとんど同じなのに、呼び方が違う。少し、ややこしい感じもしますね。この2つの言葉の違いは何なのか、詳しく解説していきます。
家族信託と民事信託の違いとは?
実は「家族信託」も「民事信託」も法律的には用語の定義がありません。「商事信託」も同様で、信託業法という法律では、「信託」についてのみ定義されています。しかし、現在ではそれぞれ、違う意味で使用されているようです。
家族信託は民事信託の1つ
民事信託とは、営利目的でない信託という意味で広く使われています。その対局として使用される用語が営利目的である商事信託です。民事信託は営利目的ではないので、自由に契約ができます。その制度を利用して、家族の間で資産の約束事を決めることを「家族信託」と呼ぶようになったようです。つまり、民事信託のなかで家族間の信託を家族信託と呼ぶのです。
商事信託と分けるために民事信託は生まれた
では、民事信託と対局にある商事信託とはどのようなものでしょうか。もともと、信託というのは信託報酬を得る目的で、信託銀行などがおこなっていた業務です。それを規制するのが信託業法です。この法律が平成18年に改正され、営利目的でなければ信託業免許を持たなくとも受託者になれることになりました。これにより、「営利目的」と「営利目的でない」信託が混在したため、民事信託という言葉が生まれたと考えられます。
一般的な信託との違い
そもそも「一般的な信託」とは
広く「信託」と呼ばれているものは、信託銀行が行う「遺言信託」を指しています。遺言信託は「遺言書の作成、遺言書の保管、遺言の執行」の3つをセットとしているのが特徴です。一般的な信託は銀行が関与する商事信託であると覚えておくのが良いでしょう。
民事信託は財産を預ける委託者、財産を預かる受託者、財産から発生した利益を得る受益者の3人の登場人物から成り立つ信託契約です。
委託者から預かった財産を受託者が管理・運用するという意味では民事信託と一般的な信託にも共通点はあります。しかし、民事信託の場合は、受託者が信託報酬を得ないことを前提としています。また受託者には子や甥・姪などの親戚、法人でもなれるというのもポイントです。民事信託の中でも家族や親戚など信頼関係が構築された人物を受託者として、財産の管理を任せる信託は家族信託と呼ばれています。
違いは受託者が誰なのか
一般的な信託と民事信託の大きな違いは、誰が受託者になるのかでしょう。一般的な信託は営利を目的とした信託銀行や信託会社などが受託者であり、民事信託は営利を目的としない信頼のおける家族や親戚が受託者になります。
信託と言うと投資のイメージがあり難しく感じますが、民事信託の場合は信頼できる人物に財産の管理を任せるためのものなので、実際のところは身近な制度です。信託契約を行わずに持ち家などの管理を親戚に任せているという人も中にはいるでしょう。財産管理におけるリスクを避けるために民事信託は有効な制度となっています。
民事信託は新しい制度
一般的な信託が誕生したのは大正時代。民事信託は平成19年に新たな信託法が施行されたことで誕生した新しい制度です。以前は営利を目的とした信託銀行しか信託を取り扱うことができませんでした。しかし平成19年の法改正により、現在では営利を目的としない民事信託を新たに利用できるようになっています。
民事信託にはリスクもある
民事信託は委託者のニーズに柔軟に対応できるしくみですが、受託者が財産を持ち逃げしてしまうというリスクがゼロではありません。自分の所有する財産を第三者である受託者に委託して管理を任せるので、財産の管理や処分は受託者の権限で行います。一般的な信託の場合は営利目的であり、信託財産に対する最低限の保証があります。しかし民事信託の場合は委託者と受託者の間の信頼関係を前提としているので、信託財産がどのように処分されても保証することはできないのです。民事信託は信託契約の下に行われますが、リスクがあるということも覚えておきましょう。
「家族」以外でも家族信託は任せられる?
「家族信託」というと、一見、家族以外は関与できないイメージがあります。しかし、上記のように家族信託とは、家族間の信託契約の呼び方であり、法律的に定義されているものではありません。ですから、友人や知人でも、弁護士などの第三者でも信託契約は可能です。もちろん、高齢の方で家族がいない、という場合でも家族信託と同じ契約を第三者と結ぶことができます。
家族信託・民事信託は同じ様な意味で使われる
家族信託という名称は、とてもわかりやすい一方で、「家族としかできない」「家族がいないとできない」という誤解を生むケースもあります。
この言葉を使用するときは、非営利目的である民事信託と同じ意味であることを理解して、話を進めることが大切です。いずれにせよ、信託契約を結ぶ人は信頼をおける人を十分検討して選ぶようにしましょう。
参考サイト
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