親への家族信託の切りだし方
家族信託は、委託者の財産が形式的に受託者に移転するものの、生前贈与とは全く違う仕組みです。受託者は委託者が指定した受益者のために、その財産を管理活用します。しかし、子が高齢の親に信託を勧めても、話の切りだし方・進め方次第では親に不信感や抵抗感を抱かせてしまうことになりかねません。では、どのように話を切り出せばよいのでしょうか。
遺言とは違うけれど…
遺言は遺言書作成者が死亡しない限り効力が発生しませんが、信託は委託者が存命のうちから開始できるので、「死」というキーワードを使うことなく話ができ、聞く方も抵抗感がないのでは?と思うかもしれません。
しかし、高齢の方が今後のことを考えるときに最初に思いつくのは、遺言です。新聞やテレビなどのメディアでは「終活」という言葉がよく取り上げられることもあり、遺言に対するハードルは以前より低くなってきています。一方信託は、メディアで特集されることもありますがまだ認知度が低く、仕組みが始まって日が浅いため多岐にわたる内容をなかなか理解しづらいのです。
さらに、信託は本人が適切に財産を管理できていれば不要なので、「死」の代わりに「認知症」「寝たきり」といった、高齢者に抵抗あるキーワードを使うことになります。
形式的にではあっても不動産について所有権移転登記が必要であったり、金銭が受託者の口座に渡ったりすることに、親が拒否感を抱くことも考えられます。ある意味、遺言よりも話の持っていき方が難しいかもしれません。
切り出す側が「信託」を正しく理解しておくこと
信託とはどのようなもので、手続きはどうするのか、開始してからの流れなど、メリットやデメリットも含めまずは話を切り出す側が理解しておくことが大切です。無料のセミナーや相談会に参加したり、本やネットを探したりして、正しい知識を身につけましょう。その際、関連する事柄(成年後見や遺言など)についても比較できる程度には知識を頭に入れておくことが大切です。
ただし、知らない相手に向かって話してやる、といった高慢な態度をとるのは厳禁です。一緒に考えるためちょっと勉強してみた、くらいの感じだと、親も話を受け止めやすいでしょう。
「あなたのことを思って」の提案
遺言と信託の一番の違いは、遺言は財産の引継ぎ先を事前に決めることで子が安心できるのに対し、家族信託は委託者が財産を家族に移転することにより、親がその後の人生を安心して暮らせるというところです。「何かあったら私が困る!」という状況になるのではなく、「あなたの財産をあなたのために使えるように考えた」と伝えることが大切です。
例えば、知人の話として「認知症になったら自分の預金が下せなくなった」「成年後見人に全く知らない司法書士がなったらしい」などと切り出し、親に自分で財産が管理できなくなった時の制度について知っておいてもらうのはどうでしょう。後見人といっても自分で後見人を決められる任意後見制度などもあるので、選択肢の一つとして信託の話も加え、もしもの時はどうしてほしいかの希望を聞くようにするのです。
ただ、唐突にこのような話を切り出されると親の方としても違和感を覚えるでしょう。何より大切なことは、日頃から親と話す機会を持ち、気軽に相談しあえる間柄であることです。
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