家族信託で起こりやすいトラブル
家族信託は、超高齢社会の現在、認知症などによる資産の凍結を防ぐため、とても有用な制度といえます。しかし、大きなメリットがあれば、逆にデメリットがあるのも事実。良い面ばかりを見て信託契約を進めると、思わぬトラブルの元にもなります。家族信託で起こりやすいトラブルと、それを極力回避する方法をご紹介しましょう。
家族信託に多いトラブル
受託者に権限が集中してしまう
家族信託と似通っている資産継承に相続があります。相続はトラブルも多く、そのほとんどは「あっちのほうが遺産を多くもらっている」などの不公平感です。家族信託でも同様で、ある特定の人が受託者となり、財産管理を任されると権限が集中するため、不公平感が出てきます。しかし、相続との大きな違いは、自分が受託者になれなかった場合にも相続によって財産が得られる権利が残っている点です。このことによって、トラブル回避につながることもあります。
損益通算ができない
もし、受託者が事業をやっていたり、収益不動産の経営をしていたりする場合、家族信託で受託した財産が赤字を出していたら、自分の事業の税金対策に使えると考える人がいます。しかし、信託財産の場合、赤字が出ていたとしても、ほかの事業の損益と通算することは出来ません。節税対策としては使えない法制度になっていますので、注意してください。
30年ルールにしばられることも
家族信託には俗に「30年ルール」といわれるものがあります。これは、家族信託が発効してから30年が経過して受益者が死亡すると、その次の代には相続の効力が及ばないというものです。家族信託の大きなメリットは、「自宅は長男に相続させる」というだけではなく、「長男の死亡後はその長男に相続させる」との指定ができることです。ところが、このルールがあることで、長期間の効力は持たなくなるのです。これは、その信託契約が長い年月を経て、家族や子孫の足かせになるのを防ぐためのルールなので、未来のこともよく考えて、信託契約に臨みましょう。
税務申告に手間がかかる
受託者は、信託された賃貸アパートや駐車場などの財産によって、収入が得られた場合、それを税務申告しなければなりません。その金額は年間3万円以上なので、ほとんどのケースで税務申告が必要となるでしょう。申告は管轄している税務署に「信託計算書」と「信託計算書合計表」を提出することになります。会社員の人は税務申告が必要になってしまいますし、自営業などの人も税務申告の手間が増えます。
身上監護の問題
家族信託は、よく成年後見制度と比較されます。成年後見人の場合には「身上監護の義務」が発生して、住居を確保したり、介護が必要な場合には介護施設などの入所も法定代理人として代行したり出来ます。しかし、家族信託の受託人は法定代理人ではありません。あくまで信託された財産を管理、運用するのが義務です。ですから、介護などの手続きでは別に任意後見契約をしておくほうがよいでしょう。もっとも、委託者が親である場合は、施設への手続きや住居の手続きもできるので、あまり必要がないかもしれません。
財産に制限がある
家族信託では、信託できる財産に制限があります。相続対象の財産すべてを信託契約することは出来ないのです。このため、いくら家族信託によって信託契約を結んでいても、対象とならない財産に関しては、遺言書を作成して遺産の承継先を明文化しておく必要があります。
初期費用が高額
家族信託は最近のトレンドですが、まだ仕組みなどを完全に理解している専門家は少ないといわれています。そのため、コンサルティング料金や手数料などは、相続や後見人制度に関する業務よりも割高な場合が多いようです。しかし、法律の専門家を入れないで、家族信託を実行することは法律的な不備が出る可能性も高くおすすめできません。必要経費だと割り切って専門家に相談しましょう。
トラブルを避けるには?
信託の種類と特徴を知る
信託には通常の契約信託や委託者が死亡してから発効する遺言信託などがあります。それぞれ特徴が違いますので、自分たちの資産状況や家族構成を考えて、適切な信託契約を選択しましょう。
専門家へ相談する
家族信託には、前述したように法律の専門家が介入することが望ましいといえます。さまざまな家族信託のトラブルを未然に防ぐためには、専門家に相談しましょう。また、トラブルに見舞われた場合でも、専門家の手を借りていれば容易に解決することも可能でしょう。
家族信託は両親の同意を得られずトラブルに繋がることも…
2007年9月30日に施行された改正信託法を基に、家族信託という制度は始まりました。まだ制度の歴史が浅いので、制度自体やその仕組も広く知られていないようです。
このため、家族信託を両親に提案してもなかなか理解が得られない可能性が少なくありません。仮に両親の理解が得られたとしても、兄弟姉妹から反対されてしまい制度を利用できないケースもあります。聞き慣れない制度である家族信託よりも、よく耳にする成年後見制度を利用することになったという方も少なくはないでしょう。
家族信託の受託者には信託財産の管理だけでなく、売却の決定まで委ねられています。両親や兄弟姉妹から理解を得られないと、受託者が財産を独り占めしてしまうのではないかと誤解を招く可能性も。特に就職や結婚などの理由で遠方に住んでいる方や、両親と疎遠になっていてなかなか会う機会が少ない方は、両親の財産管理を申し出てもなかなか納得してもらえないでしょう。
家族信託のメリットを十分に活かすためには、財産を預ける委託者と預かった財産を管理・運用する受託者の双方が制度を理解し納得したうえで運用することが必須です。
家族信託を検討している場合は、制度の概要や仕組み、メリット・デメリットまでを含めて両親や兄弟姉妹としっかり相談しておきましょう。
家族信託を利用するべき人とは?
不動産を遺産として残す場合に意思決定者を選定しておきたい人
家族信託では受託者が信託財産の意思決定権をもっているため、不動産を遺産として残した場合のトラブルを避けられます。
不動産の相続人が複数で共有名義になっている場合、不動産の売却について揉めてしまうことは少なくありません。揉めなかった場合でも、共有名義になっている不動産を売却する際には、相続人全員が同意のうえで不動産を売却する必要があります。共有持分だけでは買い手がつかず、不動産は塩漬けになってしまうでしょう。
家族信託を利用すれば、共有名義で相続した不動産の意思決定をスムーズに進められます。
判断能力を失った場合に財産を失うリスクを抑えたい人
事故や病気が原因で適切な判断能力を突然失ってしまっても、家族信託で財産の管理者を定めておけば、突発的に財産を失うリスクを抑えられます。
疾病により認知機能が下り、「判断能力がない」とされる高齢者が、悪い人に付け込まれて財産を騙し取られてしまったという話を耳にしたことがあるでしょう。特に多額の財産を持っている方は詐欺被害に遭わないかと心配なはずです。
また、財産の所有者が認知症になってしまうと、裁判所が認めた成年後見人でないと財産の管理が行えません。こうなると不動産の売却や預金の引き出しなども不可能です。
家族に残すはずの財産を失ったり、財産が凍結してしまうようなことは避けたいでしょう。家族信託の利用は認知症や詐欺対策としても有効なのです。
判断能力のない相続人に金銭的な援助をしたい人
家族信託で判断能力のない相続人を受益者として設定することで、金銭的な援助が可能です。
受益者には信託財産から得られる収入を受け取る権利があります。しかし財産の相続予定者である配偶者や子が知的障害や認知症により判断能力を失っている場合、相続した財産を自ら管理できません。
そんな場合には相続人を受益者として、信頼できる家族に財産を託して管理を任せて金銭的な援助を行うと安心です。
信用できる人物に財産を管理してもらいたい人
家族信託を利用することで、自分の財産を家族の中で最も信頼できる人に管理してもらえます。
相続が発生した場合、最も優先順位の高い相続人に財産が相続されます。配偶者は常に法定相続人であり、被相続人が配偶者と子であれば配偶者と子が法定相続人。配偶者いない場合には子が法定相続人です。
被相続人が財産を次の世代へと引き継いでほしいと考えていても、相続人が相続した財産を勝手に売却して現金化してしまうかもしれません。このような場合に、家族信託で最も信頼できる親族を受託者に設定しておけば、被相続人の意思が尊重されやすいでしょう。
相続人以外を家族信託の受託者に設定すると、本来の相続人である配偶者や子の権利を侵害してしまわないかと懸念する方がいるかもしれませんが、相続人を受益者にしておくことで相続人の権利が守られます。
事業が破綻した場合に最低限の財産を家族に継承したい人
家族信託は浮き沈みの激しい事業を行っている自営業の方におすすめです。家族信託における信託財産は他の財産と異なり、差し押さえの対象ではありません。事業が傾いて破産した場合でも信託財産は返済に回されないのです。
経済状況が変わって事業が傾いた時に、家族に残せる財産がないと心配でしょう。家族信託を利用しておけば、不測の事態が起こった場合に最低限の財産を家族に残せます。
家族信託では委託者自身を受託者に設定できます。この場合、信託財産を隠し財産であるとみなされる可能性も。他の財産と同様に差し押さえられて家族に残せなくなるので、家族信託を利用する際には必ず委託者以外の親族を受託者に設定しておきましょう。
家族信託を利用するのが難しいケースとは?
家族信託は新しい財産管理方法として、これからの更なる活用が期待できる信託です。その一方で、事情によっては信託の利用が難しい、あるいはできないケースも存在します。
家族の仲が悪い場合
委託者と受託者が家族、親族間であるからこその「家族信託」です。委託者と受託者に信頼関係が築けているのはもちろんのこと、受託者以外の家族(や法定相続人)が受託者を認めていることも大切な要件です。
財産の名義が委託者から受託者に移転しても、実際に受託者がそれらを自由に使えはしませんが、元々家族仲が良くないと、他の家族はどうしても疑心暗鬼になり、ますます関係がこじれてしまう怖れがあります。
委託者の判断能力が疑わしい
家族信託は「契約」の一種であり、当事者双方の意思の合致があって初めて効力が発生します。意思を表示するには判断能力が必要ですが、例えば委託者が既に認知症の症状が進んでいれば判断能力なしとされ、契約を結べません。仮に結んでも無効です。このような場合は、法定後見制度を利用するのが最適でしょう。
受託者となる人がいない
「家族」間の信託なので、当然ながら家族のいない人は利用できません。いたとしても遠方過ぎて財産管理が実質不可能、あるいは忙しすぎて信託行為ができない場合も、難しいでしょう。このような場合は信託でなく、専門家と任意後見契約を結んでおくのも一つの方法です。報酬は発生しますが、全ての財産を管理してもらえ、さらに身上監護も対応してくれます。
【まとめ】トラブル回避のために家族信託に強い司法書士に相談する
家族信託は、平成18年に信託法が改正されたことによって誕生した制度。まだまだ歴史が浅いため、制度に関する詳しい知識を持った専門家が少ないのが実情です。このため「専門家にお任せできれば、安心!」と考えるのは危険な場合もあります。家族信託に関する豊富な知識を有する専門家でなければ、予定していた通りの資産管理が難しくなる可能性も。家族信託を考えている方は、相談実績の多い司法書士に依頼しておけば、安全に必要な手続きを行ってもらえるのでおすすめです。
参考サイト
- 宮田総合法務事務所:家族信託のメリット・デメリットは何ですか?
- 株式会社日本財託:後悔する前に知っておきたい専門家が明かす家族信託8つのデメリット
- 不動産投資の教科書:あえて指摘してみる家族信託のデメリット5つとデメリット解決法
- LIFULL介護:【FPが答える】認知症になった親の預金を引き出したい
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